今日は少しネガティブなタイトルですね。
本日のテーマは、BCワインそしてオカナガンワインの近年の気候について。
私にとっては胸も張り裂けるショッキングなニュース。
結論からお話してしまうのですが、
オカナガンワインの2024年から以後3~5年のヴィンテージは・・・
2024年頭に発生した冷害で壊滅的ともいえる状況になってしまいました😭
ワイナリーから2024新ヴィンテージがリリースされたとしてもVQA(産地呼称制度)はほとんど出ないだろうといわれています。2024-2029の間は幻のヴィンテージになってしまうのでしょうか。
いったいオカナガンに何が起きたのか。
BC州・オカナガンワインのいまいまを現地のワインスペシャリストがレポートします🖋
BCワイン(オカナガンワイン)の気候についておさらい
はじめにBC州のワイン生産地と気候についておさらいしていきます。
BC州のワイン生産地は気候条件の異なる9つのGIsというエリアによって分けられています。
私の住むバンクーバーや、観光地としても人気の高いヴィクトリアを持つバンクーバーアイランド、そしてその間にある複数の島々・ガルフ諸島は太平洋に面した海洋気候。
オレンジのフレイザー・ヴァレーとリルエットの間にはスキーリゾートとして有名なウィスラーやそれに連なる標高の高い山々があり、太平洋から流れ込む湿った空気をブロックしています。そのためオカナガンやシミルカミーンといったエリアは海洋性の影響を残しつつも、内陸性の気候を併せ持っています。
オカナガンとシミルカミーンについては、南(↑の地図には反映されておりませんが国境を越えたアメリカ側)からパイナップルストリームとも呼ばれる暖かく乾燥した空気が流れ込み、その暖かい空気はシュスワップより北から流れる冷たい気流や湖が作り出す気流によりブロックされ、暖かい空気が湖の南側にとどまり局地的な高温と乾燥を作り出します。
結果として、オカナガンやシミルカミーンはカナダで唯一の準砂漠気候という特殊な気候を作り出すわけです。
雄大な自然の繊細なバランスによって、世界中のどのテロワールとも比較することのできない、局地的なマイクロクライメイトをたくさんもった唯一無二のテロワールがBC州・オカナガンエリアなのです。
オカナガン湖をドライブウェイは目にも楽しく、湖の北はカナダらしい針葉樹が広がっていますが、南に行くにつれ生えている植物の種類が変わり、最南端のオソユースに着くころにはオレンジ色のむき出しの土と背丈の低い植物が迎えてくれて、ここはカナダなのか!?なんて思ってしまうほど。
2024年1月に発生した記録的な寒波
そんなユニークすぎるテロワールであるオカナガンに何が起きてしまったのか。
2024年1月、BC州上空にArctic outflow(北極圏流出)という現象が起きました。
北極圏流出とは文字どおり北極の冷たい大気あふれ出し、大陸上にとどまってしまう状態。冷たい空気は重く密度が濃いため、南に南下してしまった寒気は地表付近にとどまります。
そして2024年1月12日に最も寒い気温が観測され、オカナガンエリアで一番大きな街ケロウナでは摂氏‐30℃(華氏‐22℃)が観測されました。
オーロラやホッキョクグマなど極寒のイメージがあるカナダですが、南西に位置するBC州はカナダ内ではもっとも温暖な州で、バンクーバーの通常の冬はどんなに寒くてもマイナス3~5℃以下になることはほぼありません。(トロントやケベックはマイナス20℃などいくことも)
ですが、その日は私のスマホの温度計でもマイナス13℃と表示されていたのを覚えています。
寒波がブドウの木にもたらす影響
秋に収穫を終えたブドウの木は、冬のあいだ休眠状態に入ります。
この期間もブドウの木にとっては大切な期間で、葉を落とし、エネルギーを木の内部に保存します。一定期間低温にさらされることはブドウにとってはストレスになりますが、それが春の芽吹きにつながります。人々は前シーズンでブドウを作るために伸ばしきりだった枝を選定し、冬の寒さで木にダメージが無いよう保護します。
ブドウが健康的に冬眠できる気温は0°C~7°C以下。それより温暖でもまた春の芽の生育が遅れたり不揃いとなる原因となります。
しかし、-15℃を下回ると枝や芽にダメージがおよび始めます。細い若い枝などは凍死してしまい、次の春に芽をつけることができません。しかし、木の幹がしっかりと冬眠に入ると-15°C~-20°Cまでは耐えられる品種が多いです。(品種により異なります。一部のヴィニフェラ種は‐10℃以下でもダメな品種はあります)
-20℃以下になると木の幹自体が死んでしまうリスクが高まり、-25℃を下回ると耐寒性のあるブドウ品種でも致命的な被害を受ける可能性が非常に高くなります。
今回の寒波がオカナガンにとって大打撃となってしまった理由
今回の大寒波で、オカナガンエリアでは55%~70%にも及ぶブドウの木が損失されました。
(数字に幅があるのは、同じエリアでも比較的古い木は生き残ることができたため。正確な損失量は今年の収穫量のデータでわかると思います)
オカナガンエリアに甚大な影響を及ぼした理由は、実は、寒気だけでなく、様々な地理的な要因が重なっていると考えられます。たとえば、カナダワインの大部分を生産するオンタリオ州・ナイアガラでも冬の低温は課題となっていますが、ここまでの大打撃を受けることはほとんどありません。
要因:その① 乾燥した土壌
湿度は空気をマイルドにし、ブドウを守る役割があります。
2024年のBC州は寒波が到来する前からの雨不足で乾燥が続いていました。ノースバンクーバーやウィスラーでも雪不足のため人工雪を降らせたり、コースの一部をクローズするほど。
2023年から続く雨不足で州全体が乾燥していて、土壌の保水能力が弱まっていました。
要因:その② 地形
渓谷という寒気の逃げ場のない土地柄、さらに南側から北に押し込む暖かい暖気があったために、寒気が窪地にとどまり、ブドウが長時間低温にさらされてしまいました。
寒気が訪れる直前までは温暖な冬の気候が続いていたために、一部ではブドウ栽培者の対策が追い付かなかったのではという声もあります。
ワインは、自然という人間のコントロールできない偉大なエネルギーの恩恵によりもたらされる飲み物、と私は思います。自然のおかげでブドウは育まれ、年に一度の収穫により、その1年の地球の活動が1本のボトルとなって表現される世界です。
その1本を作るためにエネルギーを注いでいるワイン生産者の気持ちを考えると、本当に心が痛むばかりです。
困難な状況を乗り越えるBC州とワイナリーの取り組み
今年の厳しい寒波により、広範囲での芽の損傷や木の損失に見舞われたオカナガンエリアでは、収穫量が大幅に減少したり、収穫ができないワイナリーも多く発生しました。
困難の中で生き残った少ないブドウ達は夏の暑さでしっかりと熟し、去年よりも早い収穫を迎えたため、少ない収穫ではありますが、濃縮した風味のワインになると期待されています。(樹齢の高い木が生き残れた傾向にあるため、その品質は高いと想定されています、、!)
BC州より、ブドウの足りないワイナリーは輸入ブドウやブドウジュースを使ってBCワインを生産できるようになったと発表されました。
これにより、多くのワイナリーで2024年のヴィンテージが生産可能になりましたが、 輸入ブドウやジュースを使って生産されたワインは、VQA(産地呼称ラベル)を使うことができなくなります。BC州のワイナリーは、どのワインが輸入ブドウとジュースから生産されているかを反映した新しいラベリングに取り組むこととなります。
多くのワイナリーで損害を受けたブドウの木の植え替えを行うため、2024年以後のヴィンテージの生産量も落ち込む予定です。(ブドウの木が質の良い実をつけるためには最低3年必要です。)
いま、このブログを読んでくださっている人がカナダにお住まいであったなら、BC ワインを買ってローカルを応援しましょう!BC州のワイナリーはこれまで以上に支援を必要としています。
もしお住まいであれば、東京・恵比寿のカナダワイン専門店Heavenly Vines(ヘヴンリーヴァインズ)またはWine@CanadaからBC州オカナガン産のワインを購入することができます。
BC州産ワイン・オカナガンワインの選び方やオススメワイナリーなど、気になることがありましたらぜひコメントを残していただくか、メッセージにてご連絡ください😊
本日のブログはいつもより長く、気合の入ったものになってしまいました。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
では、また🍷
Eri
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